てんしのキッス(ナタネ)

 ナタネさんに恋をしていたとき、僕の人生は彼女を中心にまわっていた。
 否、ナタネさんが人生の中心なのは今も変わっていないし、恋は毎日だってしている。ただ、今の僕はあの頃よりも少しだけ落ちついて、ほんの少し大人になっているというだけだ。
 とにかく、あの頃の僕の頭のなかはナタネさんでいっぱいだった。今もいっぱいというのは置いておくとして――何をするにもナタネさんを基準にして考え、気分の一喜一憂にも確かに関わってきていた。
 たとえば、ナタネさんの夢を見た日なんてそれはもうひどいものだった、と思う。一日中デレデレしていて、野生のビーダルに「みずでっぽう」をひっかけられても特に気にならなかったし、ミミロルの耳パンチを食らっても涙すら出なかった。

「こぉーら、そろそろ起きなきゃダメだよ」
「うう〜……あ、あと五分――」
「ダメダメ! ちゃんと早起きしないと一日中すっきりしないんだから。……ほら、起きて。今ならおはようのキスしてあげるよ――」
「……!」
 
 今になって思うのは、あの頃の僕は本当に危うくて、浮かれていたなということ。そして、どうせ会うなら夢のなかなんかじゃなく、直接「おはよう」を言ってもらえるような、朝が一番良いということ。
 ――ああ、困った。どうやら、浮かれているのはあの頃からちっとも変わっていないようだ。

貴方は×××で『夢であえたら』をお題にして140文字SSを書いてください。

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2024/09/15