ニンジン、ジャガイモ、悩みの種(ガジ)

「ねえ、ガジさん。人間って、よく物の例えにお料理を使う気がするんだけど……あれって、なんで?」

 晩ごはんの材料を買いに雑貨屋へと足を運んだとき、店主のヘーゼルと旅行者が話し込んでいるのを聞いたのだ。小説家だと言う彼はこの町を題材にした物語を書きたいと思っているらしく、こうして町の人々に取材をしているのだそう。

 ――今回は、いつもと違った味を出してみたいと思っているんです。毎回同じメニューばかりだと、読者の皆さんも飽きてしまうかもしれませんから――

 その言葉が、ひどく印象深かった。ニンジンやジャガイモと一緒にその疑問を抱えたまま帰ってきてしまうくらいには、彼の言葉はグリシナの胸に深く突き刺さっているらしい。

「私、ああいうのってまだよくわからなくて……そもそもモンスターだった頃はお料理自体したことなかったし、ここまで高度なコミュニケーションもとれなかったから」

 シアレンスに辿り着くまでの旅路を思い出す。母を亡くしたあと、フワリの体で駆け抜けた道中は景色も意識もぼんやりとしていて、残っている記憶は非常に少ない。どこからやってきたかも定かではないし、どんなモンスターや人間に出会ってきたかもほとんど記憶にないのだ。
 覚えていることといえば――たとえば、どこかで二人のドワーフに出会ったような気がする、ということとか。

「そのあたりはオレにもわからないけど――ただ、オレはグリシナの作ってくれるカレーうどんが大好きだゾ。毎日でも食べたいくらいだナ」
「もお……そうやって褒めておけば私が言うとおりにするって思ってるんでしょ」
「作ってくれないのカ?」
「〜〜〜……そういうとこほんっとずるい! 今回だけだからねっ」

 
2024/09/02