焦げ茶色をした面影(クロード)

 パルミラはあまり雨が降らない。ゆえに、故郷ではこうして空が泣くたびに天の恵みに感謝していた。
 しかし、山ひとつ隔てただけの隣国のくせに、レスターはパルミラよりいくらも気候が安定している。乾燥にあえぐ地域もあるにはあるようだが、パルミラの人々のように雨量によって生命を左右されることはない。レスター諸侯同盟という土地は――否、このフォドラに住む人々は、クロードの目にひどく豊かで異様なふうに映った。
 この国に来てもう数年が経っているくせに、未だこうして文化の違いに眉をひそめてしまうときがある。そろそろ慣れるべきだな、なんてちいさくため息を吐きながら窓の外を眺めていると、視界の端を一匹の野良猫が横切った。長い尻尾を優雅に揺らめかせながら走るその猫は、このガルグ=マク大修道院に住みついている野良衆の一匹だ。全身びしょ濡れで木陰に隠れるその姿はどこか痛ましく、震えるその身を抱えてあたたかい住処を与えてやりたくなるような、そんな風合いをしている。
 ――普段、こんなふうに感傷に浸るような性質ではないのに。きっと、あの焦げ茶色の毛並みをした野良猫に、愛した女の面影を重ねてしまっているせいだろう。

あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『雨の日の野良猫』です

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2024/08/30