目を疑っタ。足元がやけにふらついて、呼吸すらも忘れてしまいそうになっタ。例えるなら、まるで天地がひっくり返るような感覚……だろうカ。
あるはずのない存在がいたんダ。否、「存在」ではない、ただの「色」。セルフィアならまだしもこのリグバースでは相まみえるわけのない、オレにとって唯一無二の、何よりも大切な色――「それ」が視界に飛び込んできた瞬間、オレはまるで弾かれるように駆け出して、その細い腕を掴んでしまっていタ。
「いっ……たあ!」
聞き覚えのない声が耳に飛び込んできた刹那、オレはインパクトレーザーを受けたくらいの勢いで肝を冷やス。自らのしでかした悪行に過去の行いを過ぎらせてしまい、ほんの一瞬ひるんでしまっタ。その一瞬の隙によって、謝罪を口にするよりも先に目の前の「存在」が振り返ル。
太陽に透ける水色の髪。そのコントラストで呼び起こされるのは、セルフィアでの幸せな記憶ダ。
オレの声に反応して弾けるようにこちらを向く、そのゆらめきが好きだっタ。アイツの髪からはいつも花の香りがして、病に伏せっているときだって、柔らかなベッドはオレなんかじゃ真似のできない良い香りがしタ。……懐かしイ。ひどく懐かしい色ダ。老いてからはすっかり白んだその髪の本来の色を、オレはまるで昨日のことのようにはっきりと思い出せてしまウ。
在りし日の思い出はオレの心臓を激しく高鳴らせ、同時に全身の血が冷め切るような感覚をもたらしタ。
「えっ――だ、誰……!?」
目があった瞬間、少女は凛とした瞳をひときわおおきく見開いタ。
オレの予想とは裏腹に――否、当前のように予想どおりダ。そこにあったのは馴染みのある金色ではなく、見たことのない蒼色だっタ。
◇◇◇
「なるほどぉ、亡くなった奥様と見間違えちゃったんですね」
鋭くとがった耳をひくひくと動かしながら、ソイツは――ブルーベルと名乗る少女は、考え込むように頷いタ。
ブルーベルの視線の先には、無造作に転がる小石の山があル。歩道からしっかりと避け集められているあたり、おそらくSeedの連中がパトロール中に整備した痕跡だろウ。
オレがすまなイ、と謝罪をすると、ブルーベルはぶんぶんと腕を振りながら「とんでもない!」と明るく笑っタ。
「もう充分謝ってもらいましたって! このまんまじゃ謝罪の無駄遣いになっちゃいますよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、どうしても自分が許せないんダ。見ず知らずの女の子の腕を引っ張ったりなんかしテ――」
「あはは、大丈夫ですってば! あたしって見た目よりも丈夫だし、行商人やってるとめちゃくちゃ鍛えられるんで! ……それに、もしかしたらあたしのほうが年上かもしれませんよ」
言いながら、ブルーベルはふふん、と胸を張って笑ウ。
オレが「やっぱリ」とちいさくこぼすとブルーベルの笑みはひときわに濃くなり、大仰な振る舞いもその度合いを強くしタ。
「エルフ……なん、だナ」
「正確にはハーフエルフですけどね。……まあ、とにかくそんな感じなんで本当に気にしなくて大丈夫です。お昼ごはんまで奢ってもらっちゃったし、今回の件はこれでチャラってことで!」
ね! と太陽のごとくまばゆい笑みを浮かべるブルーベルが、オレの背中を勢い良く叩ク。亡き妻のそれとは似ても似つかないほど力強い手のひらに思わず咳き込んでしまったのは、思いのほか気が緩んでいたせいだろうカ――
「でも……なんか、いいですね。見ず知らずのあたしと見間違えちゃうくらい、奥様のこと愛してたんだ」
含みある物言いを指摘するよりも先に、ブルーベルはオレの前から去っていク。
「これから姉さんに会いに行くんです!」そう言い残した少女の背中はやはり、在りし日の妻の面影を色濃く宿しているように見えタ。
RF5クリア記念にずっとあたためていたものを書きました
2025/01/31
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