文章

ぼくたちのオーバーチュア(カキ)

 おれはこの荒野さながらなオハナタウンで生まれた。 ブーバーたちほのおポケモンに囲まれて育ったおれがほのおポケモンを好きになるのはごく当たり前のことだと思うし、ガラガラと馴染みある生活を送っていたこともあってそこからファイヤーダンスに興味が…

はたちをこえて(グリーン)

「ほ~れ、キスしてやんよ」 揶揄するようなグリーンの声とともに、指先が唇から離れる。弾けるようなその所作はカロス仕込みというかなんというか、彼の整ったルックスもあって非常に絵になる――のだけれど。「やっだぁ、グリーンさんの投げキッス! これ…

そんなふうに鳴いたって(レッド/グリーン)

「を見てると、色んなことがしたくなるんだ。が『してほしい』と思うことも、ぼくがぼくのためにやりたいと思うことも、本当に、何でも。触れたい、キスしたい、抱きしめたい、隣にいたい。の全部をぼくだけが占められたらいいのにって、いっつも、ずうっと、…

ふたりのみどり(グリーン)

 ――あんな石ころひとつで。 日曜の夜、暇を見つけたグリーンはタマムシデパートへと足を運んでいた。理由は気分転換が5割、姉から仰せつかった用事が3割、そして残りの2割は、とある少女を思い浮かべてのことだった。 先日グリーンバッジを明け渡した…

9609(レッド)

「……いいと思う」 アローラに発つ直前のことだ。ひどく無口なレッドさんが、出し抜けに発したひと言。それは、遠い南国に向けての服装選びに頭を悩ませていたわたしに対して投げかけられたものだった。「え、えっと、それは――」 くるりと振り返るわたし…

無題(フラダリ)

 立ち止まるわけにはいかなかった。終わりなんて呆気ないものを、こんなにも簡単に迎えてはいけない。自分には役目があった。彼から預かったドンカラスを返す。彼にみたびの「希望」を見せる。自分の掴んだそれを渡す。絶望に沈む彼が、せめて心を安らかに出…

矛盾の、「矛」(カキ)

 ――そんな不純な動機で島めぐりをするもんじゃないと、この気持ちを知った人にわたしはそうして嘲られるのだろうな。 それでもなんとなく、否、それすら受け入れてしまう気がするのだ、わたしは。アローラ地方はアーカラ島の空へ高く突き刺さるヴェラ火山…

王子は今夜も跪かない(ククイ)

「ククイ博士、わたし、チャンピオンになりたいです」 アローラ地方1番道路、ハウオリシティはずれにて。ククイ博士の住まうポケモン研究所の玄関先で、わたしは今日も決まった文句を口にする。  それはもはや戯れにも等しかった。もう耳にタコが出来ると…

ダイゴの花が咲く(ダイゴ)

「……ふあぁ」 ――眠たいなあ。 眠気になんとか抗おうとするわたしは、モンスターボールのひとつやふたつまるっと入りそうな大口を開けて、まぬけなあくびをひとつした。 食後の心地よい満腹感はわたしに穏やかなまどろみを連れてくる。今にも夢の世界へ…

ちいさなせなか(シトロン)

「シトロンくん! 今ちょっといいかい? エレザードの育成についてなんだが――」「いたいた、おーい! ジムリーダー、今日こそバトルしてくれよー!」「ごめんねシトロンちゃん、実はうちの店の冷蔵庫がおかしくなっちゃって――」 もはや雑音にも等しい…

「幼い筆跡の手紙」

「ディルックさん、何を見てるんですか?」  寝室のベッドに腰掛けるディルックが書簡に目を通しはじめたのは、寝る準備を早々に済ませ、心地よいまどろみを待ちわびている頃だった。 疲れが溜まっていることを指摘されたおかげで、今夜ばかりは英雄業もお…

まんまるちゃん

 アカツキワイナリーの北部には、ふくふくの雪ヤマガラがたくさん生息している。住んでいる地域のせいか比較的人懐っこい彼らは、いつしかにとって顔馴染みの友人のような存在となっていた。「こんにちは」と挨拶すれば、元気よくさえずりを返してくれる。そ…