ポケモン

04

 次に目を覚ましたとき、の視界にあったのは変わらない真っ白な天井であった。 一切の汚れも見えない白。心が滅入りきったときにはまるで自分を拒絶するようなふうに見えていたこの天井も、今は少しだけ優しい色に思える気がした。この身を包み込んでいるシ…

03

 あたたかい感触がする。額を優しく撫でる手のひらはの傷ついた心身をゆっくりと癒やすようで、その柔らかくも厚いぬくもりに、夢現の狭間で胸の奥をじんわりと揺らした。 この手の主は誰だ――? ビッケのそれとはまた違う柔らかさをした肌は、ほんの一瞬…

02

 結局グラジオの見送りにも顔を出せないまま、は切迫とした日々を過ごしていた。旅立ちから早数ヶ月、彼が居なくても世界は変わらず進んでいき、きっとどこかでは息もつかせぬような日々が流れているのだろうと思う。 かつてのような空っぽの毎日。グラジオ…

01

「近いうち、ここを出ようと思う」 それは、なんてことない昼下がりのことだった。 久々にエーテルパラダイスへと戻った日。ここを出た当時と変わらぬままのグラジオの部屋で、二人は羽根を伸ばしていた。いま落ちついているのはバルコニーに設置されたテー…

チャンピオン・マサルの目撃情報

「いえ、れっきとした恋人ですけど」 臆することなく答えるマサルに、マイクを差し出すインタビュアーは目を見開いて呆気にとられていた。 もちろん彼女だけでなく、背後でカメラを構えたカメラマンや、若きチャンピオンに黄色い声をあげるギャラリーの群れ…

大丈夫だよ、ここにいるから

 ねえ、。ちょっとだけ体貸して――言うやいなやのマサルが背後から覆いかぶってきたのは、なんてことない昼下がりのことだった。 突然襲うずっしりとした重みに面食らうも、しかし、がそれを撥ねつけるようなことはなかった。ただ静かに彼を受け止め、おだ…

湯けむりの奥

 ――するり。 細い肩に指をすべらせてやると、くすぐったそうに身をよじる。少し前ならなにするの! と怒られていただろうに、ここ数年でぼくの突飛なスキンシップにもすっかり慣れてしまったようで、過剰に拒否されるようなことはなくなった。 少しだけ…

ハートアメざいく

「――ん、うん。わかった」 どこかくすぐったそうに肩をすくめるその姿には、「あのダンデを打ち倒した稀代の新チャンピオン」という謳い文句で日夜騒がれた際の威厳や風格など、微塵も感じられなかった。 もちろんそれは彼をくさした印象ではなく、まだま…

break time

※数年後設定 ---  チャンピオンとなって早数年。ぼくは利便を考えて、つい最近ナックルシティに引っ越した。 そらとぶタクシーといった交通手段こそあるが、それでもやはりチャンピオンの職務というのは思っていたより何倍も忙しく過酷だ。ひどいとき…

こんなにもひかる

 ステージの上で声を張り上げるネズさんは、普段の辛気臭そうな姿とは打って変わってきらきらと輝いて見えた。 どこか後ろ向きで切なくもある、けれど胸を打つような歌詞にあわさるのはかき鳴らすようなメロディで、コーラスとして参加しているタチフサグマ…

あいしてる!

 ラテラルタウンでカセキをもらった。ワイルドエリアで拾ってもきた。今の手元にあるのはいびつな複数のカセキで、これらをどうするべきか考えあぐねた結果、ポケモンセンターにいたトレーナーにもらったアドバイスを参考にしようと思ったのだ。 ――6番道…

お嬢様ネットワーク

「ねえ……さんって、スイーツは好き?」 それは、ひときわ賑わうカフェでのんびりしているときのことだった。お気に入りのモモンソーダに舌鼓をうっていたマリィは、あ、と思い出したように声をあげたあと、そうしてぼくに訊ねてきたのだ。 立派なバニラア…