Log(ポケモン)

しのびよるノクターン(カキ)

「――いっけぇ、オシャマリ! “アクアジェット”!」「かわせ――ッいや、“ホネブーメラン”で軌道を逸らすんだ!」 大きく飛び跳ねたオシャマリが、全身に水の鎧をまとってカラカラへと突撃する。夕日のオレンジを身にまとい空高く飛び上がるオシャマリ…

たぐるラプソディ(カキ)

 どれほど歌い続けたのだろう。体はどんどんと火照り、気分が高揚していくのがわかる。もっと、ずっと、何度でも歌える、そんな錯覚を抱くほどにあたしの心身は高ぶっていた。 目の前にいるのは先ほどのケンタロスとミルタンクの夫婦だけではなく、あたしの…

ひびけエスプレッシヴォ(カキ)

 あたしのお母さんは海の上で生まれた。 そのことに何か不満を抱いていた様子はなく、むしろこの海の雄大さを知らないなんて、と陸の人を下に見ていた節もあったらしい。海に生まれ、海と生きる、海と添い遂げ海に還る、そんな一生を歩むのだと漠然と思って…

ぼくたちのオーバーチュア(カキ)

 おれはこの荒野さながらなオハナタウンで生まれた。 ブーバーたちほのおポケモンに囲まれて育ったおれがほのおポケモンを好きになるのはごく当たり前のことだと思うし、ガラガラと馴染みある生活を送っていたこともあってそこからファイヤーダンスに興味が…

はたちをこえて(グリーン)

「ほ~れ、キスしてやんよ」 揶揄するようなグリーンの声とともに、指先が唇から離れる。弾けるようなその所作はカロス仕込みというかなんというか、彼の整ったルックスもあって非常に絵になる――のだけれど。「やっだぁ、グリーンさんの投げキッス! これ…

そんなふうに鳴いたって(レッド/グリーン)

「を見てると、色んなことがしたくなるんだ。が『してほしい』と思うことも、ぼくがぼくのためにやりたいと思うことも、本当に、何でも。触れたい、キスしたい、抱きしめたい、隣にいたい。の全部をぼくだけが占められたらいいのにって、いっつも、ずうっと、…

ふたりのみどり(グリーン)

 ――あんな石ころひとつで。 日曜の夜、暇を見つけたグリーンはタマムシデパートへと足を運んでいた。理由は気分転換が5割、姉から仰せつかった用事が3割、そして残りの2割は、とある少女を思い浮かべてのことだった。 先日グリーンバッジを明け渡した…

9609(レッド)

「……いいと思う」 アローラに発つ直前のことだ。ひどく無口なレッドさんが、出し抜けに発したひと言。それは、遠い南国に向けての服装選びに頭を悩ませていたわたしに対して投げかけられたものだった。「え、えっと、それは――」 くるりと振り返るわたし…

無題(フラダリ)

 立ち止まるわけにはいかなかった。終わりなんて呆気ないものを、こんなにも簡単に迎えてはいけない。自分には役目があった。彼から預かったドンカラスを返す。彼にみたびの「希望」を見せる。自分の掴んだそれを渡す。絶望に沈む彼が、せめて心を安らかに出…

矛盾の、「矛」(カキ)

 ――そんな不純な動機で島めぐりをするもんじゃないと、この気持ちを知った人にわたしはそうして嘲られるのだろうな。 それでもなんとなく、否、それすら受け入れてしまう気がするのだ、わたしは。アローラ地方はアーカラ島の空へ高く突き刺さるヴェラ火山…

王子は今夜も跪かない(ククイ)

「ククイ博士、わたし、チャンピオンになりたいです」 アローラ地方1番道路、ハウオリシティはずれにて。ククイ博士の住まうポケモン研究所の玄関先で、わたしは今日も決まった文句を口にする。  それはもはや戯れにも等しかった。もう耳にタコが出来ると…

ダイゴの花が咲く(ダイゴ)

「……ふあぁ」 ――眠たいなあ。 眠気になんとか抗おうとするわたしは、モンスターボールのひとつやふたつまるっと入りそうな大口を開けて、まぬけなあくびをひとつした。 食後の心地よい満腹感はわたしに穏やかなまどろみを連れてくる。今にも夢の世界へ…