短編(九条)

狡猾な優越感

 妹は――「九条裟羅」は、時折り何の知らせもなくふらっと山へ戻ってくる。 片割れの帰還といわれれば、俺としてはひどく喜ばしいことに違いない。しかし、妹は単なる里帰りでやってくることもあれば、どことなく思いつめたような、神妙な顔をして戻ってく…

この堅物女……!

 近頃、兄さんは私に対して意地の悪いことを言う回数が増えた。揚げ足をとるような下品な真似こそしないものの、どうにもからかわれることが増えたというか、いわゆる「イジリ」を受けることが増えたというか…… けれど、それも仕方のないことだ。兄さんの…

高下駄の呼び声を聞く頃に

 高下駄の音が鳴り響く頃、山林はまるで耳を澄ますかのように、つかの間の静寂を取り戻す。 時刻は深夜零時をまわった頃合いだ。懐かしい客人のすがたを目にして、木々たちも心なしか喜んでいるふうに見える。 しかし、彼女の訪れに沸き立つ野山とは打って…