短編(シャルロット)

くらやみのばけもの

 時おり、息のしづらくなる瞬間がある。 自分はこんなところにいるべき人間じゃない。陽のあたる場所に立てるような身分なんかじゃないだろうと、いつも耳元で誰かが囁いている。普段はそんなもの簡単に振り払ってしまえるけれど、時としてその声は俺の足元…

気が向いたらな

 ねえ、さんってウィンクできる? 一回でいいから、ちょっと試してみてくれない? ――ただのありふれた思いつきが、今この場に横たわっている妙な沈黙の発端だった。  その無邪気な提案に応えたのが間違いだったのかもしれない。彼女は――シャルロット…

合図

 こん、ここ、こん、こん。独特のリズムで叩かれた窓へ、反射的に飛びついた。薄いガラス板の向こうには見慣れた手袋が覗いていて、張りつめていた精神が一気に緩むのを感じる。「彼」が訪れてくれた安心感により、ついつい気が抜けてしまったのだろう――シ…

君のための宝物

「受け取れよ」 ぽん、とやさしく投げ渡されたそれを、両手で丁重に受け取った。 クラフト素材の紙袋はかさりとした小気味良い音を立て、シャルロットのちいさな手のひらのうえで誇らしげに胸を張っている。紙袋はリボンの形をしたモノクロのシールで可愛ら…