短編(リネ)

そこに私は、いないけど

「今年の『お父様』のお誕生日は、いったい何をしようかしら」 じっくりと、紅茶を片手に考え込むような素振りでリネットがつぶやく。その内容は他でもない、来月に迫った「お父様」のお誕生日をどんなふうにお祝いするか、という話だ。 どうやらこれは壁炉…

月明の逢瀬

 それはありふれた夜のこと。誰にも悟られないように、リネは極力気配を消してゆっくりと館の中を歩く。 ただ足音を消して、人の視線をくぐりながら進むだけ――このような小細工などリネットにはお見通しなのだろうが、同じように彼女が厚意で見逃してくれ…