原神

01/21 01:12

「レイチェル――今日はいつにも増して飲みすぎじゃないか。明日はあの子の誕生日なんだろ」 時刻は深夜一時過ぎ、エンジェルズシェアのカウンター席にて。酔いつぶれてテーブルに突っ伏したまま動かない後頭部へ、ディルックは静かに声をかける。 レイチェ…

夢の蕾とふくらんだ種

 思わず目で追ってしまうような、唯一無二の背中があった。 凛とした立ち居振る舞いがひどく目を惹くその人は、騎士然とした柔和な笑みと勤勉な態度が印象的で、はまたたく間に彼の虜となってしまった。……もっとも、彼がモンド中の注目の的であるディルッ…

春風と灯火

 ――迷子に、なってしまったようだ。見覚えのない路地裏に立つ少女の脳内を、どこか客観的な言葉が占める。 さっきまで手を握ってくれていた母の姿は、今やどこにも存在しない。右を向いても左を向いても知らない路地の壁が広がるばかりで、うっすらと暗む…

甘ったるいアップルティー

「どうやら僕は、君に拒絶されることをひどく恐れているようだ」 ティーカップとソーサーが触れあう刹那、その小さな衝突音にかき消されそうな声がする。 しみじみと、まるで読書を終えたときのような口ぶりで言うディルックさんは、波紋の広がるティーカッ…

二人について・噂話

 アカツキワイナリーのディルックは近頃、とある女の子に夢中らしい――そんな噂がモンド城に蔓延するようになったのは、実のところ最近の話ではない。 昨年度にはじわじわと広まりつつあった件の風の便りは、しかし今となってはモンド城の人間の半数が周知…