Admire

花びらより落ちる影

※公式キャラの失恋描写があります ---  ――しばらくは色々と忙しくなるだろうし、落ち着くまでの間バイトは休んだほうがいい。花言葉へは執事に使いを頼むとしよう。 ディルックの言葉に甘えた結果与えられた休暇も、昨日で終わりを迎えてしまった。…

あなたをあなたと呼べるまで

 今日のアカツキワイナリーには予想外の来客があった。――否、彼は本来であれば「来客」ではなく、ただ久しぶりに「帰ってきた」だけだ。 モンドではあまり見ない褐色肌と、特徴的な眼帯。どこかエキゾチックな容姿をしたその人は、かつてディルックと共に…

意味のある一瞬

「――ウェンティ、やっと見つけた……!」 それは、囁きの森でぼうっと過ごしていた昼下がりのことだった。ゆっくりと迫ってくる空腹の気配をごまかすように慰めていた頃、ぜえ、ぜえと息を荒らげた少女が、突如視界に飛び込んできたのだ。 不意の来訪に吟…

決して枯れたりするものか

 が事故にあった。 清泉町へ配達に行った帰り、ヒルチャールに襲われている青年を助けようとして崖から落ちてしまったらしい。その青年が迅速な対応をしてくれたおかげで命に別状はないそうだが、その知らせを耳に入れた瞬間、僕の世界はほんの一瞬すべての…

明昼の下で咲う君へ

 安心、するはずだったのに。彼が見放してくれさえすれば、すべてに諦めがつくと思っていたのに。いざその手を離されると、まるで地の底へと堕ちたような痛みが全身を襲う。今にも死んでしまいたくなるほどの絶望が視界の隅まで広がって、の足をぶるぶると震…

闇夜を照らしてくれたあなたへ

 ――夢を見た。あったかくて、やさしくて、陽だまりみたいな匂いがする夢を。 そのぬくもりはひび割れた心にゆっくりと染み渡って、亀裂のひとつひとつをじんわりと埋めてゆき……あたたかなお風呂でひと息ついたときのような、癒やしに満ちた心地よさをも…

誓いの焔

 正直なところ、真っ先にディルックを襲った感情は「困惑」だった。アカツキワイナリーの手入れされた屋敷で育った彼にとって、いま眼前に広がっている埃まみれの一軒家は良くも悪くも非日常を感じさせるものだったからだ。 腕のなかにいる少女が荒れ果てた…

忍び寄るのは孤毒の足音

「はあ……ディルック様、今日も本当にステキ。私もいつか、ディルック様とディナーをご一緒してみたい……」 呼吸にも等しい独り言――もしくは惚気を発したのは、バイトの同僚であるドンナだった。 彼女は長らくディルックに憧れていて、控えめながらも熱…

小花の下には何がある

 モンド城の最高部に位置する大聖堂――その裏にはひっそりと、どこか静謐な空気をまとう墓地がある。天寿を全うしたモンドの人々は特例を除いて皆ここに埋葬され、墓石や木々の間を抜ける風を浴びながら、ゆっくりと眠りにつくのだ。 いわばこの場所は、モ…

罪悪の種

「ですか? なら、このあいだ家に帰りましたよ」 お見舞いがてら大聖堂まで足を運んだある日、彼女の友人である牧師バーバラにそう告げられた。 思えば先日顔を見に来たときに覚悟を決めたようなふうでいたから、そのことを考えれば帰宅したと言われても納…

薄氷のうえを少女は歩く

 ほぼひと月ぶりに、住み慣れた家の玄関扉を開ける。馴染みのある重量はに帰宅の実感を湧かせ、長らく家を離れていたことによる疲労を癒やしてくれたような、気がした。  大聖堂からの帰路は平穏無事と言って問題ないものであっただろう。途中、鹿狩りの前…