変わらないこと、変わるもの

 僕にとって、誰かの告白を断るというのはほとんど初めての体験だった。
 ショーステージに立つ者として、観客たちから「好き」と言ってもらう機会はありがたいことに何度もある。ただ、そこに恋慕の念を、何年も温め続けた恋心を乗せて伝えられたのが、先日の――とある少女のそれが、初めてだったというだけで。
 とはいえ、彼女の告白は「私のことを振ってください」という、決別を望む悲痛なものであったのだけれど……あれから数ヶ月が経った今でも、自分の伝えた言葉が正しいものであったのか、彼女に与えた傷が最小限で済んだのかと、時おり頭を悩ませてしまう。彼女の行為が迷惑だったとかではなく、みんなに笑顔を与えることを生業にしている者としての、矜持的な観点で、だ。
 だから――

「……お、あそこにいるのがそうじゃないか? おーい、カイトー!」
「あっ……か、カイトさん! おたんじょ……いや、記念日、おめでとうございます……っ!」

 こうして、司くんに連れられてセカイにやってくる彼女が、以前と変わらずに僕を応援してくれている事実は、彼女の意識しないところで、僕にとってのささやかな救いになっていたりする。
 彼女は――輝夜ちゃんは、真っ白な頬を桜色に染めて、僕のほうへ駆け寄ってきた。あとから司くんも続く。

「司くんに、輝夜ちゃん。……もしかして、お祝いのために来てくれたのかい?」
「ああ。輝夜のやつ、一番に祝いたいから日付が変わると同時に連れて行けと聞かなくてな。わざわざうちに泊まってまで作戦を実行したのだから相当だぞ」
「う、うるさいな……! 今は言わなくていいでしょ、それ……っ」
「あはは……そっか、そうなんだね。……ありがとう、輝夜ちゃん」

 そう伝えたときの彼女は、かつてに見せた恋する女の子の顔ではなくなっていたけれど――それでも満足そうに、照れくさそうに笑う表情は、僕のなかに残る“何か”を、少しずつ解かしてゆくのだった。

「では改めて……カイト、記念日おめでとう。これはオレからのプレゼントだ」
「あ、ずるい! カイトさん、私からもプレゼントがあって、えっと――」
「本当かい? それはそれは、とっても楽しみだな」

記念日おめでとうございます!
2022/02/17