たたん、たたん、たん、たたん。スパイクジムのバトルフィールドに、リズミカルなタップダンスの音が鳴り響く。
軽快なステップを追う瞳は爛々と輝いていて、興味津々といった具合に思わず両の頬が緩んだ。ついさっきまでジムリーダーとして鋭利なバトルを繰り広げていたというのに、ひとたびステージを降りたらこれだ。年相応の振る舞いは見た目以上に愛らしく、いつまで経っても、どれたけ見ても飽きやしない。
可愛いね、とありのままの感想を吐くのを堪え、バリコオルに夢中のマリィに近づく。どうしたんだと声をかければ大げさに肩がびくついて、おそらくぼくが近寄っていることに気づかないほど熱中していたのだろう。
うららぁ、と鳴くモルペコは呆れたような顔をしている。こちらはちゃんと、ぼくの気配にも気づいていたらしい。
「驚かさないでよ、ラベンダーさん」
「あはは、ごめんね。そんなつもりはなかったんだけ……彼のダンスは面白いかい?」
「うん、すごく。バリコオルって、そもそも野生じゃあんまり見んやん? ポケモンの巣穴にたまーにおるくらいで」
「確かに……バリヤードの生息地も少し離れているし、お目にかかることは少ないか」
「そう。それに、スパイクジムはあくタイプが専門やけんね。エスパータイプのバリコオルを出してくる人なんかまずおらん」
そう言って、マリィはぼくに向けていた視線をバリコオルに戻した。彼女がまた見てくれて嬉しいのか、はたまたぼくというギャラリーが増えたせいか、彼のタップダンスはどんどんその勢いを増してゆく。
分類が「コメディアンポケモン」というだけあって、バリコオルは注目の的になることや、人々の楽しそうな様子が大好きなポケモンだ。共に旅をしていた頃は、ジムチャレンジで行き詰まるたびにひょうきんな彼の様子に何度も励まされた。
近頃は披露する機会もじわじわと減ってしまっていたから、きっと今日のマリィの熱視線は、彼にとって久しぶりの「やりごたえ」を与えてくれているはずだ。ならばこんなにも激しく、楽しそうにパフォーマンスをするのもうなずける。
ここまでイキイキとしたバリコオルを見るのはいつぶりだろう――それこそジムチャレンジの最中くらいかもしれない。それほどまでに、今のバリコオルは輝いていた。
「でも、不思議といえば不思議かな」
「何が?」
「バリコオルってこおりタイプも入っとるやろ? なのに、こんなに汗をかくまで熱いダンスなんかしちゃってさ、こおりが溶けたりせんのかなって」
訝しむようなマリィの視線につられ、バリコオルのステッキを見る。こおりで作られたそれはまったく溶ける様子もなく、むしろ床に打ちつけるたび透明感のある音色を奏でていた。
あのステッキがあるからこそのタップダンス、なのだろうか。さすがに自身の汗や運動程度で揺らぐものではないようだ。……もしかすると、ダンスの合間にも冷気を出して形を整えているのかもしれないけれど。
「こおりタイプって冷たいポケモンが多いんかなと思っとったけど……あたし、認識を改めたほうがよかね」
リザードンポーズよろしい決めポーズをするバリコオルに、精いっぱいの拍手喝采を送りながら。マリィはそのパフォーマンスを称えるかのように、バリコオルに握手を求めに行くのだった。
2021/11/12