野良犬マニュアル

 ――タルタリヤのばか! きらい! あっちいって!!

 かわいいかわいいと遊んでいたら、とうとう怒らせてしまったらしい。否、彼女が俺にたいして本気で怒ることなんてそうそうないし、これも結局は怒ったふり、ただのポーズだと思うけど。
 とはいえ、ご機嫌斜めのお姫様をこのまま放っておくわけにはいかない。「あっちいって」と言いながらも俺のそばを離れようとしない真っ黒な野良犬を、そっと抱き上げて膝の上に乗せてやる。俺が触れても嫌がる素振りはいっさい見せず、むしろ安心したように身を寄せてくる始末だ。
 簡単に機嫌が直りはじめた野良犬の、耳のあたりをくるくると撫でる。ミラはここに触れられるのが好きだ。このあたりをくすぐっているとすぐに寝落ちてしまうし、猫であれば喉を鳴らしているのだろうな、とたやすく想像できるくらいにリラックスしてくれるのである――ここで耳に触れると再び機嫌が悪くなるので注意が必要だ。耳に触りたいときは、少しばかりムードを整えてやらないといけない。もちろん例外はあるけどね。
 人によってはめんどくさくてたまらないのだろうけど、俺からすればどれも楽しくて仕方がない。俺の手によって大人しくなったすがたを見るのは手懐けているようで気分がいいし、たまにわざと失敗すると期待どおりの反応が返ってきて面白い――時折り予想外のリアクションをとられてこちらが面食らったりするのだけど、それもまた一興である。
 とにかく、俺はミラのこうした一面をひどく愛おしく思っている。俺のために存在する「俺のミラ」なのだから、何をやっていてもかわいくてかわいくて仕方がないのだ。

貴方は×××で『ご機嫌取りも楽しみのひとつ』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/375517
 
2024/10/03