帳と私の内側にあるもの

「……俺と一緒に来たこと、後悔してるか?」

 クロードの声は常よりも暗く、重苦しいものだった。しかし、彼が近づくと同時にドギツい酒の匂いがするおかげで、おそらく宴で飲みすぎて少々感傷的になっているだけなのだろうと推察できる。
 悪酔いによるものであるなら、それほど心配する必要もないか。ゆらりと隣に並ぶクロードを一瞥して、ウィノナはちいさくため息を吐いた。

「随分と後ろ向きになっているのね」
「俺だって悩むときくらいはあるさ」
「どうせ飲みすぎただけでしょう? くよくよ悩んで凹むより、さっさと眠って明日の二日酔いに備えたほうが建設的よ」

 酔いがまわっているせいで覚束ないクロードの、ほんのりと熱い手を引いて歩く。荒れ地の冷たい風を浴びながら天幕へ進む道中は、少しくらいは彼の酔いを覚ましてくれるだろう。
 天幕のなかへ足を踏み入れて帳を下ろすと、クロードが背中からずしりと覆い被さってきた。相変わらず酒くさい吐息が耳元にかかるが、まあ、ひとまずは好きなようにさせておこう。肩に乗った頭を優しく撫でれば、まるで猫のように擦り寄ってくる――その振る舞いは可愛らしいのだが。

「お前には色んなもんを捨てさせちまったろ。兄弟とか、故郷とか、大切なやつとか――」
「どれも覚悟のうえよ。貴方の気にすることではないわ」
「だが――」
「ああもう、うるさいわね。……いいのよ。貴方がそこにいてくれれば、それで私は生きていけるもの」

 のしかかってきた体を引きずったまま、水瓶に溜めた冷水を汲んでやる。冷たいものを体に入れれば少しは頭もすっきりするはずだ。
 相変わらず酔いはまわっているようだが、差し出した杯を前にしたクロードがほんの一瞬警戒の目を見せたことを、ウィノナは決して見逃さない。……それでいいのだ。誰が相手であろうと警戒を緩めず、神経を糸のように張りめぐらせているこの男だからこそ、自分はすべてを捨てても構わないほどに惚れ込んだのだから。

「飲み終わったらさっさと寝なさい。私の言うことが聞けないなら明日の介抱はないわ」
「手厳しいね……」

貴方は×××で『君という名の』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/375517

2024/10/02