メシマズ少年Sの未来や如何に(ナタネ)

「……シラシメくん、そういえば料理とかしたことないんだっけ」

 テーブルの上に鎮座する奇っ怪な皿を見ながら、ナタネは口元を押さえていた。そこにはまるでドガースでも乗っけたかのような、どくガスじみた煙が異様な雰囲気で立ち昇っている。

「う……す、すみません。僕、いつもナタネさんにご飯つくってもらってばかりだから、たまにはお返ししようと思って」
「うん……その気持ちはすごく嬉しいよ。あたしも最初はひどかったしね」
「はい……」

 がっくりとうなだれているところを見るに、どうやらシラシメは珍しく本気で凹んでいるらしい。彼はいつだって楽しそうに笑顔を浮かべているから、これには少しばかり驚いた。
 おそるおそる、目の前の料理――とも言いがたい物体を口に含む。焦げくさいのに中は変に柔らかくて、独特の苦味の奥に隠されたほんのりとした甘みが、この物体の正体がきのみであることを教えてくれた。嚥下に多大なる覚悟を要したものの、まあ、見た目よりはまずくない。好んで食べたい味ではないが、極限までお腹が減った状態であればかろうじて食べられそうなラインだ。

「……わかった。シラシメくん、せっかくだし料理の練習しようか」
「え――」
「さすがに毎日とかは無理だけど……たまにだったら教えられるよ。シラシメくん結構器用だし、頑張れば絶対うまくなれるから」

 ここまでしょげた恋人を放っておけるほど、非情であるつもりはない。
 何より、いつの日か腕を上げたシラシメの手料理をお腹いっぱい食べてみたいと、そう思ってしまったのだ。

「早速だけど……次のお休みにでもどうかな」
「……! はい! よろしくお願いします……!」

あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『メシマズ』です

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2024/09/26