何も言わずに寝てしまえ(タルタリヤ)

「……ま、待ってくれよ、ミラ? そういうのはちょっと、さすがの俺も困るんだけど――」

 うろうろと視線を彷徨わせるタルタリヤの、真っ青な瞳を見つめた。返事など知らぬとばかりの振る舞いは、いつも向こうがやってくることだ。
 彼は戸惑っているのだろう。今、おのれが置かれている状況に。

「なに、なんか文句でもあるの?」
「文句っていうか……こ、心の準備ができていないというか」
「はあ? わたしにはいつもいきなりのくせに、今更そんなこと言われても聞くわけないでしょ」

 言いながら、ミラはタルタリヤの無防備な耳をくすぐってやる。普段あまり聞かない間抜けな声が漏れたことに満足しつつ、そのふわふわの髪をゆっくりと撫でた。
 タルタリヤは今、膝枕の刑に処されている。ひどく乱暴かつ、愛情じみた経緯によって。
 
 事の発端はほんの数十分前のこと――ミラの目の前でタルタリヤがふらついたことに由来する。鍛え抜かれた戦士であれど、やはり蓄積された疲労は無視できないようだ。当然と言えば当然だが。
 いくら若くて体力のある男とはいえ、自己管理がなっていないのは如何なものか。普段あんなに戦士としての在り方を説いているくせに、自分のことはこうも杜撰なのか――否、もしかすると野良犬という新たな負担が増えた釣り合いをとることができず、不覚をとってしまったのかもしれない。当事者である野良犬――もとい、ミラからすればほんの少しだけ、罪悪感を抱かせる事象だ。
 ゆえに、強硬手段に出た。部下たちに今日は休みだと取りつけて、タルタリヤを部屋に閉じ込めた。はじめは首を傾げていた彼だったが、ミラの意図するところを察したのか、そのうち話を聞いてくれるようになり――その結果、こうして膝枕までこぎつけたのである。
 普段は向こうから飛び込んでくるのに、こちらからのアプローチにはいささか弱いらしい。少しばかり居心地が悪そうなのは、きっと気のせいではないのだろう。

「困ったな……このままだと俺、本当にダメになっちゃうかも」

 ダメにしたくてやってるんだけど――! すぐそこまで出かかった言葉をなんとか飲み込んで、タルタリヤの視界を遮る。
「いいからさっさと寝ろ」というメッセージがうまく伝わったのか、程なくして穏やかな寝息が聞こえはじめた。いつもよりか細いそれは彼の疲労の度合いをあらわしているようで、ミラはおおきく深いため息を吐きながら、あどけない少年の寝顔を眺めていたのだった。

貴方は×××で『駄目にならない程度でお願いします。』をお題にして140文字SSを書いてください。

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2024/09/24