重りという名の(丹恒)

 シャロンさんの部屋は、いつも非常に片づいている。……否、「片づいている」というより「物が少ない」と言ったほうが正しいかもしれない。
 あの人は――俺がこの列車に加わってからの短い期間の話だが――私物という私物をあまり持っておらず、本当に必要最低限の荷物しかそこには存在していない。もちろん女性である以上それなりの量ではあるのだが、三月や姫子さんの私室に比べると、やはりどう見ても殺風景だ。
 以前、身軽にする理由を本人に訊いたことがある。しかしシャロンさんははぐらかすような調子で笑って、「物があると落ちつかないんだよね」と言っていた。
 俺は、そのひと言がずっと引っかかっている。彼女の心の奥に溜まった、鉛の欠片に触れたような。彼女を彼女たらしめる深淵に近づいてしまったような気がして、柄にもなく指先が震えたことを覚えている。
 そして、少しだけ怖くもあった。こんなにも身軽な人であれば、いつか俺たちの知らぬ間に決意を固めて、さっさと列車を降りてしまうのではないかと。ナナシビトという生き様は得てして別れがあるものだが、俺は、できるなら彼女との別れは遠い未来の話であってほしいと思う。
 だから俺は、今日も彼女へのお土産と称して、降り立った星で買い物をする。こうして何かを渡しておけば、それが微かな重りとなり、彼女との別れを遠ざけてくれるような気がするからだ。

あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『整頓された部屋』です

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2024/08/29