遠く離れたあなたへ

子供がいる

拝啓 ディミトリ

 ごきげんよう、ディミトリ。ずいぶんと寒くなってきたけれど、そちらはお加減いかがかしら? と言っても、今あなたのいる場所は、季節による寒暖差なんてあまり関係ないかもしれないわね。
 今日は星辰の節20日だというのに、私ときたらファーガスを離れなければならない用事ができてしまって……本当にごめんなさい。不平や不満があったら次に会えたときいくらでも聞くから、少しだけ辛抱してちょうだいね。

 今はちょうどパルミラのほうに足を運んでいるところよ。クロードに「せっかくだから一緒に過ごさないか」と言われてしまって、渋々ではあるけれどやってきたの。私の他に、ドゥドゥーはもちろん、イングリットやシルヴァン、フェリクス、アッシュ、アネット、それからメルセデス……ふふ、懐かしい顔ぶれがたくさんよ。
 もちろん子供たちも連れてきたわ。あの子たちったらドゥドゥーのことが本当にお気に入りらしくって、二人がごねてくれたおかげでなんとか彼を無理やり引きずってくることができたの。あなたの頑固なところによく似ているのと……そうね、それだけじゃないわね。二人ともあなたとおんなじ瞳をしているわ。すごく優しくて綺麗な目――どれだけ大きくなっても、それは変わらないみたい。
 あの子たちにまとわりつかれているときのドゥドゥーは、友人としてあなたに接しているときとよく似た顔をしているわ。
 ……本当は、あなたと一緒に過ごすべきだったのよね。王妃として、そして、国王代理の立場にある者として、私はあなたの生誕日にファーガスにいるべきだったのでしょう。
 でもね、同時に今日でなければできないこともあったの。クロードの言葉で思い出したのは悔しいけれど、あなたが前に病に伏せっていたおりに言っていたことを思い出したのよ。……あなた、一度でいいから王であることを忘れて、誰も知らないところで友人とだけの誕生日を過ごしてみたいと言っていたの、覚えているかしら?
 あれはきっと熱にうなされたせいで出た弱音だったのだろうけれど、クロードから「今日はディミトリの夢を叶えてやらないか」という旨の書簡が届いたのをキッカケに、私はもう居ても立ってもいられなくなって、こうしてパルミラに向かっているというわけなの。もちろんドゥドゥーたちも了承済よ。
 あなたを連れてこれなかったことだけ残念だけれど、代わりにこっそり持ち出したアラドヴァルと、あなたが愛用していた眼帯がここにあるわ。さすがに鎧や外套まで抱えての旅路は負担が大きくなってしまうから……何もかも中途半端でごめんなさいね。

 これらはすべて私の独断で行っていることだし、本当にこんなことであなたが喜んでくれるかはわからない。ただの自己満足なんじゃないのか、と言われても、私は何と答えることもできないでしょう。
 ただ、私はもう止まっていることができなくなってしまったの。あなたという最愛の人をなくした世界はあまりにもうるさくて、けれどもとても静かであって。何もしないでいると、騒音と静寂に押しつぶされて気が狂ってしまいそうだったから。
 自分勝手なことばかりしてしまってごめんなさい。ただ、もしもあなたがどこかで私たちを見守っていてくれるなら、この私の想いに少しでも触れてくれたなら、私は少しだけ、あとほんの少しだけ、この世界に留まってもいいと思えるかもしれない。
 次にあなたと会えたときは、いつもどおりの私でいると約束するから――せめてこの手紙のなかだけでは、少しだけ弱音を吐くことを許してね。

 愛してるわ、ディミトリ。
 きっとこの両手にも抱えきれないくらいの思い出話を持って会いに行くから、あと少しだけ待っていて。
 おとうさま、おかあさまと、どうか仲良くしていてね。

 
お誕生日おめでとうございます
2021/12/20