私が奪ったんだ(ガジ)

 あの人が、私ではない誰かに――エリザさんに恋してたことを、誰よりもよく知っている。
 エリザさんにはいっさい伝わってなかったみたいだけど、あの人の熱の入れようといったら、きっとシアレンス中の誰もが知っていることだったと思う。もしくは、あまりにも当たり前すぎてまったく気にされていなかったかのどちらかだ。
 とにかく、彼の恋はいわゆる周知の事実であり、もしくは暗黙の了解として、この狭い町に浸透していた。新入りの私ですら痛いほどに見てきたのだから、きっと旅行者にとって印象深いものになることもあっただろう。
 けれど、その恋はもうどこにもない。今のあの人が――ガジさんが気持ちを傾ける人はエリザさんではなく、他でもないこの私にその熱を注ぎ、ずっと笑いかけてくれているから。
 私はそんな毎日が何よりとても幸せで、時おり少し、苦しくなる。
 私の初恋は、そういったある種の略奪を塗り重ねてできていた。

貴方は×××で『恋を重ねる』をお題にして140文字SSを書いてください。

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2024/08/26