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たったひとりのあなた(ディミトリ)近親愛

「ウィ……ウィノナ? その――」おそるおそる話しかけてくるディミトリの目的がどこにあるのか、ウィノナはもう知っていた。おいで、と両手を広げてみれば、彼は安心したように微笑ってウィノナに身を預けてくる。こうするとひどく落ちつくのだと言って目を…

その目を閉じて、さあここで(ディミトリ)近親愛

夜な夜な悪夢に魘されていること。味覚が非常に鈍っていること。未だそこにある亡者の気配に時おり身を震わせていること。左腕のしびれが残り続けていること。眠れない夜、苦しい最中、私にすべてを委ねていること。誰も、何も知らなくていい。私だけそこにい…

口説き文句(アッシュ)

「僕、君にちょっとだけ嘘を吐きました。初恋の話、なんですけど」曰く、心に住まうはひとりだけ。夢に見るのも私のこと。ただひとり、何年もずっと想い続けてここにいると、そう打ち明けたアッシュの頬の紅が、鏡のようにこちらに移る。私が音を上げたとてな…

殺し文句(ディミトリ)近親愛

「あらやだ、そんなに見られると照れるのだけれど」「いや……その、お前は本当に綺麗だなと思って。ずっと見ているはずなのに、日毎美しくなっていくお前に見惚れていたんだ」「ちょ、ちょっと待って」「この世のどんな美辞麗句を並べても、お前の麗しさを表…

獅子王の牙(ディミトリ)近親愛

「別に支障はないだろう、どうせ晒す機会などないのだから」夜毎に増える首筋の痕。鬱血痕ならまだいいほうで、時には深く食い込んだ歯の形が残る日もある。獅子王と呼ぶに相応しい、捕喰者の目を向けられるたび私が何も出来なくなることを知ってなお、否、知…

穏やかな木々の声がする(ディミトリ)近親愛

終戦間もなくから続く激務の最中、無理やり休みをもぎ取らせた昼下がり。膝の上に寝転ぶ愛おしい人は不器用に寝息の真似をして、まるでこの一瞬すら惜しいとでも言いたげに意識を保とうとしている。「私はどこへも行かないわよ」そう声をかけるとかくんと力が…

鼓動の音が虫の息(アッシュ)

頬が熱いのは誰のせいだ。胸が逸って、鼓動がうるさい、それも、いったい、誰のせいだ。薄い唇が「好きだ」と宣う。慈しみを湛えた目がこちらを見て、淡い緑を優しく細め、ひたすら私を愛そうとする。もう限界で、お手上げだ。頼りないはずの胸板にぎゅうとキ…

もう、終わり(アッシュ)

何も言わずに離れた私に、あの子は何を思うだろう。……考えるのはやめるべきか。この手を真っ赤に染めて、きっとこれから酷い目にあう、そんな私はあの子と一緒にいるべきではないのだから。あの子はもうこの太陽の下、明るい世界を歩んでいくべきで、私たち…

ここが、泣き場所(メルセデス)GL

「ウィノナ、こっちへいらっしゃい~」呼び声に誘われるまま手を伸ばし、今日も私は柔らかな感触と体温に包まれにいく。ぎゅう、と優しく抱きしめられてしまえば、私の涙腺は壊れたようにほろほろと涙をこぼした。メルセデス、と名前を呼んで、変わらず返って…

彼岸の夢(ディミトリ)近親愛

昼は勇猛に民を導き、怒りをおさめ、世を太平へ誘うというに。幼子のように震えた声で縋りついてくる大きな体、柔らかな金糸を優しく撫でる。なあに、どうしたの、大丈夫よ。宥めるように声をかければ、安堵したのか力が抜けた。「あねうえ」と力ない声が鼓膜…

願いはあえなく焼け落ちる(アッシュ)

「ウィノナ、一曲どうですか?」「おや……ずいぶん洒落たお誘いですね。でもごめんなさい、私、歌はあまり得意じゃないですし、風琴の心得もなくて」「あはは、それは僕も同じです。じゃあこうしましょうよ、千年祭の同窓会の日に、こっそり誰かにお願いして…

こっちを見ないで(クロード)

自分たちの関係を言葉にするなら、それは気が楽のひと言に尽きるだろう。もちろん最低限の配慮はしたうえでの話だが、例えば自分を偽ったり、淑女のように過ごしたりといった、肩肘はった振る舞いをせずに済むのは助かる。ただひとつ、終わりでもあり始まりに…