文章

天を仰ぐように(本編沿い)

 スマートフォンを手に取ってみる。指は自然とSNSのアイコンを辿り、ホーム画面を開かせた。タイムラインを追う元気はない。つぶやくだけなら、まあなんとか。 当たり障りのないつぶやきを数個落として、他人のつぶやきを見る間もなくすぐ閉じた。最近は…

心は歪み、根は腐る(本編沿い)

 懐かしい夢を見ていた。もう何年も昔の話だ。 生まれたばかりのあたしは体があまり強くなくて、東京の空気が合わなかったのもあり、しばらくのあいだ母方の実家で過ごしていた。田舎らしく不便ではあれど空気はすごくおいしくて、結局あたしは就学直前まで…

恵みの雨(本編沿い)

 ゲームとはまず楽しむもの――それがあたしの信条だった。 窮屈な日常において、大好きなゲームを逃避に使っていたことは認める。どうにもならない家族に囲まれて過ごす毎日なんて、息が詰まって仕方がないもの。どこにも逃げ場なんかない。助けてくれる人…

そっと芽吹く(本編沿い)

※本編のセリフを引用している部分があります--- テレビ番組というものには、正直なところあまり馴染みがない。 昔からテレビを見るよりゲームをするのが多かったし、観るなら観るで深夜アニメか日曜日の朝にある特撮くらい。特に最近は自分が動画サイト…

問答無用のダジャレイディ(P3/真田)

「小鳥……コトリ。――あ、小鳥が怒っとります……?」 彼女の口から紡がれるダジャレたちは、この冬時分には些かつらいものである。ペルソナの氷結弱点とはあまり関係ないものだろうが、どこか背筋が凍えたような心地を感じるのも事実。一言で言うなら、サ…

寒いな、(P3/真田)

 彼女は確か、俺たち兄妹とほぼ同時期に施設にやってきていたと思う。年が近いこともあってか話す機会はそれなりに多く、美紀も比較的懐いていた。「お人形のお姉ちゃん」という美紀の声が耳にこびりついているせいで、彼女の本当の名前を思い出せないのが心…

はじまりはいつも(P3/真田)

「お前は、いつも1人なんだな」 その言葉の主がにやついた同性であったならば、いつものように無視して終わりだったと思う。  ようやっと寮生活というものに慣れ始めた頃だった。始めはどこで何をすればいいのかもわからず、実家ではさんの帰りが遅かった…

初めての温度(逆転裁判/御剣)

 私は、くんが泣いているところを一度しか見たことがない。 彼女の裁判が終わって、安堵から流した大粒の涙。仕事とはいえ、一度は彼女を犯人に仕立て上げようとした人間が思うことではないかもしれないが、あのときの涙は純粋に、心から美しいものだと思っ…

明日は我が身(監禁中/ツキノ)

※ストーリーの重大なネタバレがあります。アプリをプレイ中、またはプレイ予定のある方はクリア後にご覧ください。---「ツキノくん、なんか大変だったみたいだね」 わたしがそう訊ねると、ツキノくんは端正な顔立ちをそのままに、爽やかな顔をして笑った…

くちびるのおく(まんマル/リンドウ)

「また笑顔の練習してんの?」 ひょこん。団子が目立つキッチンカーの裏、飛び出すように顔を出したのはマルシェの仲間のひとり、だった。客足も落ちついた昼下がりのこと、突然の襲来にリンドウは大袈裟に肩をビクつかせる。「――、さん」「あ、驚かせちゃ…

だって、そうでしょ?(夢100/ミヤ)

 最近、あたしには新しい友達が出来た。友達と呼んで許される仲なのかはわからないけれど、彼自身があたしを友達だと呼んでくれるから、恐らくそう言って問題はないのだろうと思う。 太陽みたいに笑うそいつと、卑屈で乱暴でひねくれ者、そして奇抜な見た目…

溶けない笑顔(夢100/シュニー)

 スノウフィリアの城下町。しんしんと雪が降りしきるなか、深雪に溶け込みそうなほど真っ白な少年が歩いてくる。独特の音を立てる霜のリズムを耳にして、はふと顔を上げた。開店まであと少しという刻限で、今は店先をさっと掃除していたのだ。「おや、シュニ…