短編(ヒビキ)

こんなのってないよ!(ヒビキ)

 一瞬の出来事だった。些細なきっかけでヒビキの視界は驚異的な速度で移り変わり、やがて真っ暗闇へと変貌を遂げる。 目まぐるしい変化はヒビキから正常な判断力を奪い、たちまち脳内をフリーズさせた。(あ――え、あれ……?) ……端的に言えば転んだの…

手のひらの間に(ヒビキ)

 小さな庭の傍らに、うず高く盛り上がった土の山がある。 不格好な十字架の建てられたそれが何かの墓標であることも、その下にその「何か」が埋まっていることも。そして、おそらく幼い子どもが手ずから作り上げたものであることもひと目で理解できるほど、…

2年の月日を飛び越えて(ヒビキ)

 ――あともう少しだ。先をゆく背中を見つめながら、ヒビキは深くうなずいた。 想いを寄せる彼女は自分より10cmほど背が高くて、2つの年の差があるとはいえど見上げ見下げられの関係というのは男としてひどく情けないものである。彼女に言えばきっと「…