ふたりで歩む未来
「お姉ちゃん、本当にいいの? 嘉明お兄ちゃんとお話したいことがあったんじゃ……」 未だ興奮冷めやらぬまま、小さな手を引いてその場を後にした。 今日は海灯祭の当日。そして、嘉明の獣舞が終わった直後である。私は漱玉の手を引きながらすっかり暗くな…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
苦く見送る背中
嘉明の家出から早数年。結局、あれ以来嘉明が帰ってくることはなかった。遺瓏埠で鏢師として働いているという噂こそ耳にするものの、私の前に姿を現したことはない。 けれど、この村に立ち寄っていないわけではないのだ。なぜならふとしたときに気配を感じ…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
心をふるわす願い
私の父である李偉は、沈玉の谷に古くから伝わる武術・巴旦派の直系かつ正当な後継者である。門を開いて派閥を広げつつも世襲の道を選んだ巴旦派は、細々とではあれど千年近い歴史をこの土地とともに歩んできた。 私は李家のひとり娘だ。つまるところ、この…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
ひとり届かぬ手紙
今日も今日とて、私たちは共に研鑽を重ねていた。 嘉明は獣舞劇、私は武術の修行――お互い分野は違えども、こうして二人で鍛錬することは良い刺激になるし、お互いの動きを取り入れることでより成長することができる。 日が昇ってから暮れそうになるまで…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
涙を乾かす猫騙し
あれから私たちはあっという間に仲良くなり、気づけば家族ぐるみでの付き合いができるくらいになっていた。 とくに嘉明のお母さんと私のお母さんが意気投合しちゃって、私たちを理由にしてお泊まりだのお出かけだのとあれこれ約束を取りつけるまでになって…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
瞳に宿る日輪
「やーいやーい! 泣き虫毛虫、弱虫!」「おっまえ、そんなんで家継げんのかよ! 可哀想だぜ、トーチャンが!」 感情に反してすぐに涙があふれてしまう、そんな自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。 私だって、別に泣きたくて泣いてるわけじゃない。我慢でき…
原神 文章 獅子と羊の筒井筒 翹英荘より愛を込めて
思い出は諸刃の剣
ミディ家の掃除中、はたびたび噛みしめるように手を止めていた。 けれど、そうして痛みを乗り越えようとする彼女を責める人間など、ここには一人も存在していない。友人であるバーバラやノエルはもちろん、突然駆り出されたガイアだって、誰一人として苦痛…
Admire 原神 文章 短編(ディルック)
約束したのに、
――なんだか、妙に眠れない。快食快眠の健康優良児であるタルタリヤにとって、寝つきの悪い夜というのはどうにも気持ちの悪いものだった。 そもそもとして、戦いに囚われた彼にとって睡眠はひどく重要かつ重視するべきものである。質の良い睡眠をとらなけ…
Adore 原神 文章 短編(タルタリヤ)
よう兄弟、賭けようぜ!
――ディルック様が仕事と結婚したおかげで、我々は美味い酒が飲めるんだ! アカツキワイナリーのオーナー・ディルックが独身であることは、モンドの酒飲みたちにとって、それなりに大きな意味を持っていた。 否、彼が独身であることに意味があるというよ…
Admire 原神 文章 短編(その他/Admire)
ほらな、やっぱり。
「重雲、おかえり! 待ってたよ〜」 目を開けると、そこにはひどく晴れやかに笑うのすがたがあった。 目の前の彼女は今まで見たことがないくらいに健やかなふうでいて、ぼくはその瞬間にすべてを悟る――嗚呼、これはただの夢なのだと。「どうしたの、変な…
一片冰心 原神 文章 短編(重雲)
「不思議だ……」
執行官第十一位「公子」様の直属の部下である様は、いつもどこか不気味な空気を漂わせている。……不気味というか、常に漆黒の衣装に身を包む鬱屈とした雰囲気が、我々の足元をざわざわとすくうようで、どうにもひどく恐ろしいのだ。 彼女が「公子」様の代…
Adore 原神 文章 短編(タルタリヤ)
笑顔の力
「ねえねえっ、! 知ってる? 今日って『いい奥さんの日』らしいよ!」 ぴっかぴかのアイドルスマイルを湛えてやってきたのは、モンドのアイドル・バーバラである。その笑みは相変わらず眩しくて、店先の花々も彼女の到来をひときわ喜んでいるように見えた…
Admire 原神 文章 短編(バーバラ)