短編(タルタリヤ)

約束したのに、

 ――なんだか、妙に眠れない。快食快眠の健康優良児であるタルタリヤにとって、寝つきの悪い夜というのはどうにも気持ちの悪いものだった。 そもそもとして、戦いに囚われた彼にとって睡眠はひどく重要かつ重視するべきものである。質の良い睡眠をとらなけ…

「不思議だ……」

 執行官第十一位「公子」様の直属の部下である様は、いつもどこか不気味な空気を漂わせている。……不気味というか、常に漆黒の衣装に身を包む鬱屈とした雰囲気が、我々の足元をざわざわとすくうようで、どうにもひどく恐ろしいのだ。 彼女が「公子」様の代…

わかってくれたかな?

「ねえ、タルタリヤ」「なに?」「わたし、ずっと気になってることがあるんだけど、聞いてもいい?」 かちゃ、と無機質な音を立てたのは、皿の上で眠るカトラリーだった。雑音と混じるそれはまるで子守唄のようであり、食後の充足感も相まってぼんやりとした…

負けるわけにはいかないな

「――いつまでそうしてるつもりかな? さすがにそろそろ寝ないとまずいと思うけど」 時刻は深夜二時をまわろうとしている頃合いだ。何をしていたのか知らないが、は俺が帰ってくるまで寝ないで待っていたらしい。 今日は任務内容の事情で彼女を連れていく…

暗がりの輪郭を求めて

「……どうしたの?」 ぴたり。突然、のちいさな手のひらが俺の胸元にひっついてきた。まだまだ幼さの残るそれは素肌に触れるとくすぐったくて、思わず笑みがこぼれてしまう。「別に……なんでも、ないけど」「なんでもなくはないだろ? そんな神妙な顔して…

悔しい、

「――飽きないの?」 口をついて出たそれは、あまのじゃくのせいじゃない。常日頃から頭の片隅に住まう本音のひとつだった。 わたしの疑問を受けた海の瞳は、こぼれそうなほどまんまるに見開かれている。……どうやら、思い当たる節はいっさいないらしい。…

そんなところまで……!?

「傷の手当てくらい自分でできるのに」 どこか不満気に口を尖らせながらも、がその手を引くことはない。 目の前に差し出された腕はすらりと伸びているものの、そこには生々しく血を流す傷口がいくつもあった。俺はそれらを丁寧に確認しながら、ひとつずつ手…

サンドイッチ

「タルタリヤってさ、そんなにお金余ってるの……?」 訓練の休憩中、腹ごしらえのサンドイッチをつまむ最中に、そんなことを訊かれてしまった。俺は最後のひと口をぽんと放り込みながら、怪訝そうな顔をするに目をやる。言葉の続きを促すためだ。「だって、…

野良犬マニュアル

 ――タルタリヤのばか! きらい! あっちいって!! かわいいかわいいと遊んでいたら、とうとう怒らせてしまったらしい。否、彼女が俺にたいして本気で怒ることなんてそうそうないし、これも結局は怒ったふり、ただのポーズだと思うけど。 とはいえ、ご…

俺が育てたちょっと下品

 このところ、タルタリヤの目が訝しげに眇められるときがある。はじめこそ気にしすぎかなと思っていたけれど、ここまで続くのを見るにどうやらただの勘違いというわけではなさそうだ。「ねえ、なんか最近変じゃない? ……わたし、何かした?」 わたしがそ…

何も言わずに寝てしまえ

「……ま、待ってくれよ、? そういうのはちょっと、さすがの俺も困るんだけど――」 うろうろと視線を彷徨わせるタルタリヤの、真っ青な瞳を見つめた。返事など知らぬとばかりの振る舞いは、いつも向こうがやってくることだ。 彼は戸惑っているのだろう。…

皿の上の強敵

「……はい、。あーんして」「んむ……」「ダメだよ、好き嫌いなんてしちゃ」「…………」「一人前の戦士になるんだろう? まったく、食べ物の好き嫌いも克服できないなんて、君の覚悟はその程度のものだったのかな」「っ……その程度って言うけどさ、わたし…