短編(タルタリヤ)

釣り糸の向こう側に

 ぽちゃん。あからさまな音を立てて落ちくれた釣り針に、背後に控えていたタルタリヤが肩をすくめたのがわかった。集まっていた魚たちは突然の無法者によってさっと四散し、目の前にはただひたすらの静寂が残るのみである。 ――失敗だ。この結果が良くない…

ショッピングでも行かないか?

「連続少女失踪事件ねえ……」 スチームバード新聞の一面を陣取るその名称に、思わず眉をひそめてしまった。このフォンテーヌでは何らかの事象によって複数人の少女が行方不明となっており、それらをひとつの事件として関連づけているらしい。「少女」という…

あなたに許された世界

 手のひらのうえで揺れる銀色は静かに陽光を反射していて、その鋭い光が暗がりに慣れた目に刺さる。突然視界を覆ったそれに思わず顔をしかめながら、それでもは手をとめることなく、その物体をころころと遊ばせていた。 それは何度か転がしているうちにぽん…

今度はすっかり知らん顔

「……何が、ほしいの」 この身を抱え込む両腕へ、ひどく唐突な問いかけをした。  ……あれから。スネージナヤより送られてきた宝の山を二人で仕分けしたあと、幼気な弟妹、気遣わしげな兄姉、優しそうな両親による手紙を確認して――さすがのタルタリヤも…

子供のような横顔で

 たくさんの荷物が届いている。フロントから運ばれたそれらは入り口の扉前をこんもりと占拠していて、少々身をよじらなければ出入りに支障が出るほどだ。 なぁに、これ。口にしてから呆然とそれらを見る。差出人は重なる荷物のせいでよく見えなかったが、あ…