あいしてる!

 ラテラルタウンでカセキをもらった。ワイルドエリアで拾ってもきた。今リナリアの手元にあるのはいびつな複数のカセキで、これらをどうするべきか考えあぐねた結果、ポケモンセンターにいたトレーナーにもらったアドバイスを参考にしようと思ったのだ。
 ――6番道路にはカセキを復元させることのできる人間がいる。うまく復元させられたら、きっと君のジムチャレンジの助けになってくれると思うよ――彼の言葉がこだまする。リナリアは、名前も知らないそんな大人の言葉を信じてここ、6番道路までやってきた。
 ガラル地方はジムチャレンジという大きな催しがあるせいか、道行く人はチャレンジャーの自分にいつも優しくしてくれるし、道具をくれたり道を教えてくれたり、傷ついたポケモンを治してくれたりと、みな親切に助けてくれる。そんな日頃の経験があるからこそ、他人のはずのトレーナーの言葉に従うことへのためらいはほとんどなかった。

「よ、よろしくお願いします……!」

 茶色い土と砂煙のなか、リナリアの持ち出したカセキを見てふんふんと胡散臭い笑みを浮かべた博士がいる。ウカッツと名乗った彼女は、傍らに設置した復元用の機械を撫でながらカセキを受け取った。
 ウカッツはふたつのカセキを組み合わせて復元させるタイプの博士であるらしく、それはどうやらこのガラル地方で見つかるカセキが上半身か下半身、どちらか片方しかない状態で見つかることが常であるかららしい。実際リナリアが持っていたものも例にもれず……という具合であって、その話に従って、上半身のカセキと下半身のカセキをひとつずつ差し出したのであった。
 今回リナリアが渡したのは「カセキのサカナ」と「カセキのクビナガ」だ。いくつかあるカセキのなかでも特に目を引いたのがこれで、直感的にこのふたつを復元させてみようと決めたのである。もっとも、今現在リナリアの手持ちにはみずタイプの気配がなく、「サカナ」とつくならみずタイプであるかも……という希望的観測があったのも確かではあるが。
 そんなリナリアの期待なんて露も知らないウカッツは、猫背気味の体をくるりと翻してリナリアに背を向ける。じっとりとした目で復元装置を発動させ、「そーれ、がっちゃんこ!」という独特の掛け声とともに機械的な音を鳴り響かせた。
 ウィン、ウィン、キュイン、ゴオン、何とも言いがたい音とともに動き始めたそれは、やがてリナリアの目の前に1匹のポケモンを出現させ――

「か、かっ、可愛い……ッ!」

 ――第一声から、歓喜の声をあげさせたのである。
 サカナというに相応しい青と水色のコントラスト、少し抜けたような顔。なんとなく体の作りがチグハグな気はするけれど、期待にふくらんだ胸は一気に出会いの雀躍で満ち満ちたのである。
 ウカッツはそのポケモンを「ウオチルドン」と言った。リナリアの期待どおりみずタイプを持っているそのポケモンは、まあるいツヤツヤのボディでもって度々リナリアに擦り寄ってくる。ただ口が上についている関係上、食事や呼吸といった日常生活以下の動作ですら補助してやる必要があるのだが、その不自由さもまた庇護欲としてリナリアに新たな感情を芽生えさせる。
 一言で言うなら「メロメロ」であった。もしかするとウオチルドンの特性はメロメロボディなのではないかと思うほどリナリアはウオチルドンにのめり込んでいたし、その愛くるしい笑顔を見ると1日の、否、1週間ぶんの疲れも吹き飛ぶような心地だった。
 見た目通りの重たい体は非常に丈夫なつくりをしていて、何よりバトルでも類まれなる活躍をしてくれる。あのトレーナーが言うことは本当だったのだ! と、リナリアはどんどん強くたくましくなるウオチルドンの背中を見るたび、何度も感謝を重ねるのであった。

 
20201104